本人目線の、アダルトチルドレンの成長と回復 How did I recover from adult children scientifically

AC(アダルトチルドレン)の私が、自助グループで話しているようなこと(そのまま同じじゃないです)を、お伝えします。

第29回 ストレスによる健忘発症の仕組み

わたしが健忘で苦むようになったのは22歳の頃で、死にたがっていた自分の子ども時代を思い出して書き出したのが契機でした。

当時大学生だった私は、時間の取れる今のうちに子ども時代の問題を片付けたいと、躍起になって昔のことを思いだして書き出していました。それは本当に苦しい作業で、当時は誰かに頼るということもできませんでしたから、頭がキリキリ痛むのをこらえながら無理して思いだして書いていたのです。

するとそんな作業を始めて数ヶ月してから、大学構内で自分が自転車を置いた場所を全く思い出せなくなることがちょいちょい起こりました。また、アパートの鍵をどこに置いたのか分からなくなったり、買い物に行っていったい自分が何を買いに来たのかを忘れてしまったり、メモに書いておいてもメモの存在自体を忘れてしまったりということが起こるようになりました。メモを忘れるようになった頃にはさすがに自分がまずい状態だと気付いていました。ともかく何もかも忘れてしまうし、だいたい世界というものにぼんやり霞がかかったような感覚で生きていると感じていましたし、なにかまともにものを考えることが本当に苦しく感じるようにもなりました。反射神経も鈍くなって、手元でものを落としそうになるとき、以前だったら落ちる前にパッと手を出してつかみ取れたものを、健忘が酷くなってからはぼんやりと「あー、落ちちゃうなあ」なんて呆けたように眺めて、ものが落ちてから拾うようになりました。

それでも、ストレスの原因である「子供の頃の体験を書き出す」という作業は、生き方を変えるために結局人生のどこかでやらなくてはならないものでしたから、どうせだったら早く手を付けた方がよくて、しかも気力体力があってストレス耐性の高い若い方がいいし、ようするに後回しにするともっと酷いことになる、と思っていたのでがんばって続けたのでした。

とはいえ、健忘状態もそのままにしてで言い訳はありません。解決しなければ、「このまま廃人になって死ぬな」と思ったものです。なにしろ一番酷いときは、「今日一日何をしただろう?」思い出してみても10分前のことまでしか思い出せないという、そんな体でしたから。そのころは頭が働かず基本的にずっとぼんやりしていました。反射神経も鈍くなり、危険に対しても鈍感になっていることを自覚していたので、交通事故などで死なないようにと、自動車の運転も控えていたし、自転車や歩行での外出も減らしていました。

あまり本は読めない状態でしたが、それでも読むよう努めていて、当時はノンフィクションの冒険ものを読んだりしていたのですが、「俺なんて冒険に出なくとも、部屋にこもって子ども時代を思い出すだけで健忘になって死にそうになれるなんて、まあなんとスリリングな人生を送ってることか」と思ったものです。

とにかくどうにかしようと、インターネットで健忘の仕組みを調べました。詳しい仕組みは書いてありませんでしたが、見当は付きました。人はストレスを感じると副腎皮質からコルチゾルというホルモンを出して、脳に届けます。このコルチゾルという化学物質は、人が危険に直面した時に、戦ったり逃げたりするため、要するに臨戦態勢を取れと脳の神経細胞に命令するものです(余談ですが、臨戦態勢になると出るホルモンとして有名なアドレナリンは、心臓や血管など主に身体の神経に働きかけます)。

ですから、何か事に当たる時には必要な働きなのです。しかし、これが長期間にわたり出ていると、神経細胞を傷つけてしまいます。

どういうことなのかというと、ここからは推測なのですが、臨戦態勢が続いていると、神経細胞がエネルギーを取れないんじゃないかと思うのです。危険を感じているときって、食欲湧かないじゃないですか? 同じように、脳がコルチゾルを受け取って戦闘モードで身構えている時には細胞にあまりエネルギーが届かないんじゃないですかね。すると、脳細胞は飢え死にしてしまいます。

当時の私の状態としては、この海馬がストレス・ホルモンのコルチゾルにさらされているために、栄養補給できなくなった海馬の細胞がバシバシ死んでいき、健忘になったのだと思います。

ところで、そもそも海馬はストレス・ホルモンの影響を受けやすく比較的弱い部位なのですが、いっぽうでほとんど唯一、大人になっても神経細胞が増える部位でもあるのです。なので、記憶のトレーニングを積むと、神経細胞が増えるのです。

というわけで、子ども時代のことを私が書き終えるか、あるいは健忘が悪化して書くどころではなくなってしまうのか、とかいうことを考えつつ、頑張って子ども時代のことを書き続けました。

その後、脳トレなどをして、記憶力はかなりマシにはなりましたが、十年以上が経った今でも健忘以前の状態には至っていません。年齢的な要素を差し引いても、忘れっぽい人になってしまいました。以前は、人と話したことは全然忘れなかったのですけどね、今はあっけなく忘れます。そこには、健忘だけではなく、そもそもトレーニングに費やせるエネルギーが少ないとか、または解離症状などの精神的な問題も健忘にからんできているらしいところがあり、すんなり回復できていません。

そのあたりの、回復の経緯はまた別の回に詳しく書きたいと思いますが、とにかく1人で辛い過去に立ち向かうのは危険、というのが私が健忘の経験から学んだことです。過去に直面する時は、誰かしらなにかしらのサポートを受けつつ取り組むことをお勧めします。